2012年5月20日日曜日

急性期脳卒中患者に対する予防的抗生剤投与は感染予防に有効である

Preventive antibiotics reduced the risk of infection in acute stroke.




急性期脳卒中患者に対する予防的抗生剤投与の有効性に関する論文の紹介です。

Preventive antibiotics for infections in acute stroke: a systematic review and meta-analysis.



Arch Neurol. 2009 Sep;66(9):1076-81.


2005年〜2008年の間に発表された4つのRCTのメタ解析です。
年齢は17歳〜19歳以上、重症度はNIHSS>4-11またはmRS>3で、全426人中94%が脳梗塞です。


使用されている抗生剤は(発症24時間〜36時間以内に開始)、
1)Levofloxacin (クラビット)500mg/day 3日間
2)Minocycline (ミノマイシン)200mg/day 5日間
3)Moxifloxacin アベロックス) 400mg/day 5日間
4)Mezlocillin (メズロシン)6g/day+ Sulbactam (スルバクタム)1g/day 4日間


4)の組み合わせは日本だとユナシンS (スルバクタム/アンピシリン)が最も近いイメージでしょうか。


結果は、


上段Aが感染、下段Bが死亡についてです。


感染症は抗生剤投与群において、コントロール(プラセボ)群と比較して優位に少ない(32/136 (23.5%) vs 53/139 (38.1%), OR=0.44 (95%CI, 0.23-0.86))という結果でした。


死亡については、両群間に優位差はありませんでした(10/210 (4.8%) vs 13/216 (6.0%), OR=0.63 (95%CI, 0.22-1.78))。


抗生剤投与による重篤な合併症はありませんでした。


急性期成人脳卒中患者に対する抗生剤の予防的投与は感染の合併を抑制するうえで有効のようです。感染症の中身が呼吸器系なのか尿路系なのかは不明です。

2012年5月16日水曜日

急性期脳卒中患者に対する積極的な経口摂取訓練は肺炎の発症を減少させる

Interventions for dysphagia reduce the incidence of chest infection  in patients with acute stroke.


肺炎に対する予防的抗生剤投与の話をとも思ったのですが、その前にこちら。


急性期脳卒中患者に対する積極的な経口摂取訓練は嚥下機能の改善に有効か?


一つだけRCTがあります。


Carnaby G, Hankey GJ, Pizzi J.
Lancet Neurol. 2006 Jan;5(1):31-7.

筆頭著者は有名なCarnaby(旧姓Mann)。今はアメリカにいますが、オーストラリア人で、研究が行われたのもオーストラリアの施設。やっぱりオーストラリア?

急性期脳卒中患者(大部分は脳梗塞)で嚥下障害のあるものに対する行動的介入の効果を見た単施設前向きランダム化比較試験。一次アウトカムは6ヶ月後の常食摂取と設定されていましたが、これにはコントロール群・介入群で優位差ありませんでした(表の第1列目。95%信頼区間が1をまたぐ。P値を計算してみるとP=0.065でした。)。

一方、肺炎発症(赤下線)については両群間に優位差があり、

急性期脳卒中患者に対する積極的な経口摂取訓練は肺炎の発症を減少させるようです。

ちなみに、手前味噌ですが、ボクの施設における後ろ向きの検討でも、急性期脳出血患者における発症当初からの積極的な口腔ケアと早期からの経口摂取開始は肺炎の発症を減少させるようです。



「あわてて食べさせるのは危ない!」というのはどうやら間違いのようで、「急いで食べるための介入を始めなければ危ない!」ようです。

2012年5月14日月曜日

急性期脳卒中における口腔ケアは有効か?

脳卒中後には高い確立で肺炎を合併することは良く知られており、肺炎発症予防に有効であるとされている介入法や薬剤がこれまでに示されてきています。



1)口腔ケア
Yoshino A, Ebihara T, Ebihara S, Fuji H, Sasaki H. Daily Oral Care and Risk Factors for Pneumonia Among Elderly Nursing Home Patients. JAMA. 2001;286(18):2235-2236. 
Watando A, Ebihara S, Ebihara T, Okazaki T, Takahashi H, Asada M, Sasaki H. Daily Oral Care and Cough Reflex Sensitivity in Elderly Nursing Home Patients. Chest. 2004;126(4):1066-1070.  

2)抗生剤の予防的投与
van de Beek D et al, Preventive antibiotics for infections in acute stroke: a systematic review and meta-analysis. Arch Neurol. 2009 Sep;66(9):1076-81.

3)ACE阻害剤

4)塩酸アマンタジン(シンメトレル)

5)シロスタゾール(プレタール)

6)半夏厚朴湯

7)クエン酸モサプリド(ガスモチン)



ざっと取り上げてみても上記のとおり。


このほとんどが日本発であるところも興味深いところですが、では、急性期脳卒中に対する口腔ケアの有用性は?


過去の調査ではNursing home patients(慢性期患者)が対象となったものはありますが、急性期脳卒中患者を対象としたものはなく、現時点では「不明」です。


「エビデンスがないからやらない」ということではないのですが、、


現在、急性期脳卒中患者の肺炎(感染)予防に有効とされているのは抗生剤の予防的投与のみのようです。


次回のテーマは急性期脳卒中における抗生剤の予防的投与に関してです。

2012年5月9日水曜日

Quality in Acute Stroke Care(QASC Trial)

Implementation of evidence-based treatment protocols to manage fever, hyperglycaemia, and swallowing dysfunction in acute stroke (QASC): a cluster randomised controlled trial



Middleton S, McElduff P, Ward J, Grimshaw JM, Dale S, D'Este C, Drury P, Griffiths R, Cheung NW, Quinn C, Evans M, Cadilhac D, Levi C; QASC Trialists Group.


Lancet. 2011 Nov 12;378(9804):1699-706. Epub 2011 Oct 11.


昨年のLancetに発表された、急性期の脳卒中専門病棟の患者を対象に入院90日後の転帰を単盲検クラスター無作為化比較試験で評価したオーストラリア発の論文の紹介です。発熱・血糖・嚥下障害の管理に関する科学的根拠に基づく治療プロトコルを事前配布した介入群(10施設)では、既存ガイドラインのみを配布した対照群(9施設)に比べ、患者が90日後に死亡または要介護(mRS≥2)となる割合が有意に低かったという結果です。

治療プロトコルは発熱・血糖・嚥下障害に関するオーストラリアのガイドラインNational Stroke Foundation. Clinical guidelines for stroke management 2010. Victoria: NSF, 2010.や、以下に示すものです。

・4時間おきの体温測定(72時間まで)、37.5℃以上でアセトアミノフェン投与。
・入院時採血で血糖測定、入院後は1-6時間おきの簡易血糖測定(72時間まで)、
  血糖値に応じてインスリン投与。
・発症24時間以内に、訓練を受けたナースによる嚥下スクリーニング。
  スクリーニングテスト不合格→専門的評価目的にST紹介。


発熱・血糖・嚥下障害に対するケアが看護師主導で行われています。






90日後の結果は、


Figure 3に示されているように、介入群に割り付けられた施設で治療を受けた患者さんたちの発症90日後のmRSはコントロール群と比較して明らかに良いようです。




当然の結果かもしれませんが、24時間以内に嚥下スクリーニングを受けた患者の割合にも介入群とコントロール群との間で大きな差(p<0.0001)が認められました。


死亡(mRS 6)もアメリカなどのデータと比較して少なく、日本の実情に近いように思いました。日本でもこれをやると急性期脳卒中専門病棟に入院する患者の予後は改善すると思います。

2012年5月1日火曜日

Acute Stroke Care(急性期脳卒中ケア)

脳卒中の予後改善には、脳卒中そのものの病態の解明や治療法の開発が重要であることは言うまでもありませんが、それと同時に発症早期からの適切なケアが重要です。


ボクは脳血管内治療医なのですが、これまでの興味の中心は脳動脈瘤をどうやって上手にコイルで詰めるか、とか、閉塞した血管をどうやってうまく再開通させるかのみにとどまらず、そうやって治療を受けた患者さんたちが、治療の後にどれくらい楽に入院生活を送れるか、とか、どれくらい後遺症を少なくすることができるかということでした。(欲張り?)


その延長線上にあるのが昔から色んな病院でせっせとやってきた急性期(発症当初)から行う嚥下機能評価・経口摂取訓練なのですが、患者さんの立場にたってみれば、重症脳卒中後に命が助かったなら(助かってしまったら?)、その次はせめて意思疎通ができてゴハンが食べられるくらいにはなりたいんじゃないかなという思いがあるからです。ただ、ボクらがこれまでやってきた呼吸器感染に対する対策(誤嚥性肺炎対策)や嚥下訓練は、必ずしも呼吸器内科医が行う肺炎の治療ではないし、リハビリテーション医が行う嚥下リハとも少し異なっているようです。


そのようなわけで、
自分がこれまで興味を持ってやってきたものは何だろう?と考えてみました。


少なくとも脳卒中そのものの本質的な治療だけではないし、
呼吸ケアだけでもないし、
嚥下リハビリテーションともちょっと違う、
栄養管理やクリパスにも興味あるし、、、


そこで浮かんできたのが「Acute Stroke Care」という言葉です。


Acute Stroke Care とは、救命病棟で行われているCritical Careの脳卒中版のイメージに近いと思います。でもSCU(stroke care unit)に入院する重症者だけに限らず、軽症者までを含めた広い範囲の、脳卒中発症直後からの正しいCareのあり方も見直していく必要があるように思います。また、死亡していくような方々には「終末期医療」としての脳卒中ケアという考え方もあると思います。


これらは、これまでの「脳卒中学」ではカバーできない領域なのではないかと思います。

今時の世間の流行は高齢化社会に向けた在宅医療・慢性期医療なのでしょうが、そういう意味でも、あまのじゃくの自分にぴったりの「Acute」です。(^^ゞ








SCU(stroke care unit)で行われる呼吸管理・栄養管理や早期離床に向けたリハビリ、
SU(stroke unit)が主体になるであろう早期退院に向けたクリティカルパスの活用、
はたまた、脳卒中後の「良い看取りとは?」などなど、、


「脳卒中学」という病気や病因を主体とする学問や医学のあり方だけでは解決することができない、脳卒中患者をとりまく臨床上の様々な問題や社会的・倫理的問題を考えて行くうえで「脳卒中ケア学」みたいなのがこれからは必要なのではないかと思います。より良い脳卒中医療を目指して、みんなで意見交換していきましょう。


知り合いの方で興味をお持ちの方がいればどしどし参加を呼びかけてください!